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おじいちゃんから貰ったバッグに、聖花から預かった聖人さんのノートを入れて学食を出る。
動悸が早くなっている。あの人の書いた詩。いつか黒い大きなバッグを抱きしめていた。
家に帰ってから読むべきかもしれない。でも早く読みたいと思った。
そのまま講義棟に背を向けて、図書館に向かっていた。
なんの変哲もない大学ノート、表紙にも裏表紙にも、何かが書いてあるわけでもない。
クリアケースからノートを出すときは、指先が震えていた。
最初のページは何も書かれていない。次のページに青い万年筆で書かれた文字がある。聖人さんらしい、右肩上がりの小さな美しい文字。
君を夏の日に例えようか。
いや、君の方がずっと美しく穏やかだ。
荒々しい風は五月のいじらしい蕾を虐めるし
なによりも夏はあっけなく去っていく。
これはシェイクスピアのソネット?
座席にバッグを置き、テーブルの上にペンケースを出して席を確保してから、ノートを抱きしめて〈戯曲〉の棚に本を探しに行った。
見覚えのない文章は、パソコンに打ち込んでみる。知らなかった詩人の名前が出てくる場合もあれば、なにも出てこない場合もあった。何度も続けているうちに、窓の外の光が変わってくる。
そして、文字がある最後のページ、詩とは言えない短編小説のような文章にいきついた。
二度黙読して、これは聖人さんの文章なのではないかと思った。
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