5 僕がここに来た理由

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5 僕がここに来た理由

 賢人は勉強が嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。実際、努力しなくても飛び抜けて出来ていた。  でも、何気なくその辺りのことを、小学校のクラスメートに正直に言ってしまい、周囲から浮いた。運動はそれほど得意じゃなかったのも悪かった。カースト上位のスポ少組に目を付けられて、軽くハブられしまった。居心地というのは簡単に悪くなる。  中学受験を経ることで、取りあえず小学校時代の関係からは逃げることは出来た。入学した私立中学は、大人しいタイプの同級生が多く、最初のうちは居心地も良かった。勉強も思いきり出来て、そっちも充実していて楽しかった。  でも、賢人には次の難関が待ち受けていた。  自分がときめく相手は男性で、女の子に興味を持てないと気がついたのが中学2年生のときだ。少し気になる男子生徒を常に目で追っている自分を自覚したのだ。  それがどういう意味か、分かる程度の知識は持っていた。どうすべきかも、自分なりに考えた。とにかく目立つことは避け、身を(すく)めるように暮らすようになった。もう自分を誤魔化せないと思う一方で、誤魔化し続けることが課せられたのだ。  しかし学校では、まさかそういう種類の人間が自分の横に座っているとは思っていないクラスメートが放つ言葉の一つ一つが、胸に突き刺さる日々だ。  中学生なんて所詮子どもだ。テレビやマンガで見聞きしたコトを面白おかしく言っては笑い合う。  今思えば、神経質になり過ぎていたかもしれない。それでも、あの時の賢人にとって、級友が軽く口に出すオカマとか、そんな言葉のいちいちにビクビクするのが、やはりキツかった。
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