5 僕がここに来た理由

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 ゲイバレしたわけでは無い。ただ、悪気のないイジりがキツい。何となく腹が痛くなる朝が増え、とうとう「もう無理かな」と思い、中3の時母親に打ち明けた。  静かに賢人の話を聞いた母親は、一言「分かった」と言っただけで、それ以上深く訊かれなかった。感情に任せて、泣かれたり怒られたり不憫がられたりもしなくて、ホッとした。こういう人だから、賢人は母のことが好きなのだ。 「で、あなたはどうしたいの? 」 「……そこが分からない」 「ふーん。困ったわね」 「僕も困ってる」 「だよね」  実家が事業をしていてお嬢さん育ちの母だが、実は大変に割り切った性格の人だ。シャキシャキの商売人で、祖父から替わって代表者となったグループ会社の業績は順調に伸びている。  無駄遣いは嫌いな人なので、賢人はぜいたくな生活をしたことは無いが、金銭面での不自由を感じたこともない。バランスの良い人だと思う。 「したいことがよくわかんないんだったら、取りあえず高校は出ておきなよ。バレてないのなら今の学校のままでもいいと思う。無理なら違う学校でもいいよ。賢人の好きな方で、母ちゃんはいい」 「今の学校は、ちょい無理。もしかしたらバレてる気がするし」 「なんかあったん?」 「何となくイジられ始めてる気がする。僕へのマウントもあると思うけど……。そんな状況なんだけど、母ちゃんどう思う?」 「逃げていいよ。賢人の居心地のいいところに行きなよ」 「やっぱ、そのほうがいいかな?」  母親は頷いた。
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