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「通信制高校とかでもいいよ。今なら色々あるみたいだから、自分で調べてごらんよ」
「わかった。高校はちゃんと出るし、出来たら大学にも行きたい」
いい判断だよ、と母親は笑ってくれた。
「あなたの状況なら、それでいいと思うよ。一時の感情で、自分の将来の選択肢を狭めるのは勿体ないじゃん。勉強するのは好きなんでしょう?」
「うん」
「だったら、よく考えて自分に有利に動きなさい」
「そうする」
「じゃ、その話はここまで」
「うん」
すっきりした気分だ。やはり母に相談してよかった。熱血型の担任教師とかに話をしても、絶対に良いことにならないだろうとは賢人も分かってる。
「でも、恋バナならいつでも聞くよ」
「……母ちゃんにはしないよ」
「なんでよ」
「恥い」
「えーー、彼氏出来たら、教えてよね。楽しみにしてる」
「えーーー、マジかよ」
ま、気が向いたらでいいよ。母はそう言うと、そのまま車を出して美味いとんこつラーメンを食べに連れていってくれた。曰く、深夜に食べる身体に悪いものは『心の栄養』になるのだそうだ。
翌日から賢人は情報収集を始めた。そして考えた末に、高校生になったら海の町のあのマンションで一人暮らしをしたいと、母親に頼んだ。環境を変えたかったのだ。
高校をきちんと3年間で卒業することを条件に、母親は呑んでくれた。
賢人が引っ越す日、母親に「楽しそうだから良かった」と言われ、その時になって少しだけ寂しくなった。15歳、実家から1時間の距離での一人暮らしの始まりだった。
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