6 ロケ現場の手前で

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6 ロケ現場の手前で

 福井さんに話を聞いた翌日、賢人は朝イチからロケを見に行こうか迷いに迷ったが、結局ノルマどおりに午前中の授業は済ませることにした。  真面過ぎるなとは自分でも思ったが、きちんとやらなかったときに、後で自己嫌悪に陥ることは目に見えている。そっちの方が嫌なので、ノルマを取ったのだ。  ロケが終わっていたら、それはそれで仕方がないと割り切ることにした。そもそも現場を見せてもらえるかもわからない。そうやって一応気持ちにもセフティネットは張った。  昼食は、食パンにジャムを塗って急いで飲み込んだ。食べてすぐ自転車に跨り、2キロ先のフェリー乗り場に向かった。平坦なので、そんなに大変な道のりでもない。大急ぎで走っていって、ロケが終わってたらショックだ。だから、賢人はわざとのんびりと走った。  向かいの島に渡るためのフェリーは、混んでいるということが無い。休日はレジャー客がそれなりにいるのだが、普段の平日なら地元住民しか使わないので、通勤通学の時間帯に多少並ぶ程度だ。だが、今日は何となく人が多く出ているような気がする。  賢人が自転車から降りて、押しながら乗り場の方に向かうと、そっちの方からお仲間と戻ってくる福井さんを見つけた。あっちも賢人の存在に気がついたらしく、笑いながら寄ってきた。 「あれ。福井さん、今日も見に来たんですか?」  賢人がそう言うと、福井さんは首を振りながら苦笑いをした。
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