6 ロケ現場の手前で

4/6
前へ
/1127ページ
次へ
 あっさりとそう返されたが、さわやかな笑顔の上に、何故かニコニコが増し増しで加わってきた。目が合うと、さらに微笑まれてしまう。賢人は、一層どうしたらいいか分からなくなった。 「便利ですよ。タブレットでもスマホでも……」 「いつでも、どこででも出来る?」 「……そうです」 「だよね。そう聞いてる」 「えっ?」 「俺の幼稚園時代からのツレも、通信制で高校を出たんだ。そいつから話をいろいろ聞いていて、俺もそれなりに知ってるよ」 「……そうなんですか」  意外だった。一方で、だからごく自然な受け止め方なんだと納得した。  でも、こんなカーストが高そうな人の友だちが、引っ込み思案な自分と同じ高校生活を選んだのかと思うと、不思議な気持ちになる。なんとなくもっと話が聞いてみたくなった。  そんな賢人の気配を察したのか、スポーツマンは「ドリンク飲む?」と自販機の方を指さした。 「いいんですか?」 「ん? 何が?」 「……あの撮影の人なんですよね? 僕と話してても大丈夫なのか……」 「ああ。いいのいいの。俺の今日の仕事は、片付けの手伝いくらいなんだ」  スポーツマンさんは、自販機の口から取り出したスポーツ飲料をホイっと賢人に投げると、タオルで自分の汗を拭いている。  ドキンとした。見ていて眩しいのは、日差しのせいだけじゃない気がする。それに、人見知りであるはずの自分が、なぜこの人とこんなにスラスラ話をしているんだろう。
/1127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

507人が本棚に入れています
本棚に追加