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ロケの人だかりの方から、彼と同じような雰囲気の人が、キョロキョロしながらこっちへやってこようとしているのを見て、スポーツマンさんが慌てだした。探されているみたいだ。
彼は、飲みかけだった飲料を一気に飲み切ると、ポイっと空ボトルを賢人に渡した。
「サボってるのが見つかる前に、俺戻るよ」
「えっ!」
ぺろりと舌を出された。
やっぱりサボりだった。ニッと笑いながら賢人に軽く手を振って、スポーツマンさんは去っていこうとする。
「じゃあな。君もサボるなよ」
「サボってませんて!」
「ははは。またなー。ゴミ、頼んだよっ」
ほんの10分くらいのことだと思う。それでも、起きたことが鮮烈過ぎて、賢人の中に強烈な印象だけが残った。
自転車に乗って部屋へ戻る道すがら、賢人はドンドン気持ちが高揚していった。そしてドキドキするというのはこういう事かと思った。
あの人、ダテさんって呼ばれてたな。どういう字を書くのだろう? またな、と言ってくれたが、会う機会なんてあるのだろうか。
思いを巡してみたが、余計に分からなくなる。でも一つ言えるのは、ターには黙っておこうということだ。絶対に揶揄われる。そんな予感しかしなかった。
分別ゴミの中にペットボトルを捨てるのを躊躇うなんて、初めてのことだ。
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