第3章 見えない足音

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「痛って……」 俺は、唇の端に絆創膏を貼り付けた。口の中はまだ血液の味がする。すぐにさっき見たばかりの美織の怯えた顔が、脳裏をよぎる。 こんな痛みよりも、美織が、今、あの男とどう過ごしているのか、心配で堪らなくなってくる。 「トモヤ、って言ってたな……」 見た目は、整った顔をした、育ちの良さそうな奴だった。見たことも会ったこともない。 ただ、その名前に少しだけ引っかかる。 『ともくんがね……』 美野里が、何度かそう話していたことを思い出す。  「ともくんか……」 俺は、首を振った。 『とも』がつく名前なんて他にもある。美野里の『ともくん』と美織の、恋人の『トモヤ』が同一人物の可能性なんて、限りなく低い。 俺は、スマホを取り出すが、美織からの連絡はない。 床に置きっぱなしの壁掛け時計は、23時を回っている。俺は、美織の元に届いた、手紙と写真を取り出すとテーブルに広げて眺めた。 「……一体、誰だよっ」 あのトモヤとかいう奴かと、思って、カマをかけてみたが、反応だけ見ると、少し違うようにも図星のようにも思えた。 俺に対する激しい嫉妬心に満ち溢れていたが、そもそも、手紙や盗撮した写真など、美織を、怖がらせるようなことを普通、ただの恋人がするだろうか。 (ん?……ただの……恋人?)
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