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この言葉から、桃葉は、美野里の心臓を美織に移植したのを知っているという事だ。桃葉は、誰から聞いたんだろうか。
また、院長の息子である橘友也が、美野里のいう『ともくん』ならば、当然、移植の事は、知っている筈だ。
ただ、俺は、美野里がドナーだという事は、出来れば美織には知らせたく無い。
「……美織のせいじゃないよ……」
美織から咄嗟に聞かれて、知らないフリをしたが、うまく誤魔化せただろうか。
この事を知れば、美織は、きっと苦しむから。
美野里を失った俺の前で、その美野里の心臓を移植した自分が、俺の側に居ていいのか、結果的に自分のせいで、美野里が、死んだんだと自身を責めかねないから。
規則正しい呼吸を繰り返す、美織の静かな寝息を聞きながら、窓の外へ目を向ける。
先程まで小さかった雪の粒は、大きな白い花弁となって、ふわりふわりと空から地面へ向かって重力に沿って、ひたすらに舞い降りていく。
「まるでスノードロップみたいだな……」
俺は、空から舞い散る氷の花びらを見つめながら、美織を抱きしめると、そっと瞳を閉じた。
『きれいだね』
スノードロップを見ながら、にこりと微笑んだ、初恋の女の子を俺は、瞼の裏に思い出していた。
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