1650人が本棚に入れています
本棚に追加
「此処だよ」
雪斗に連れられて、最寄りの駅から電車に揺られて1時間、私達は、雪斗の通っていた大学に到着した。
雪斗が、警備員に、30期生という事と、写真の展覧会に来た旨を伝えると、すぐに重厚な門扉は開かれた。松原大学と彫られた石柱を眺めながら、私は、雪斗と共に門をくぐり抜けていく。
「カトリック系の大学なんだね」
広いキャンパスに入ってすぐの左手の建物を見れば、てっぺんに十字架を掲げた、丸いステンドグラスの窓が、特徴的な教会が、佇んでいる。
「そ。俺は無宗教だったから、必修の聖書の授業よくサボってた」
「雪斗らしいね」
「サボりが、俺らしい?」
言いながら、雪斗が、ケタケタ笑った。
「あ、美織、あそこの花壇見て」
教会のすぐ側には、マリア像が建てられており、その周りを囲むようにレンガ造りの花壇がある。
見れば色とりどりパンジーが、仲良く並んで咲っているようだ。
「パンジー綺麗だね」
パンジーの花言葉は、『僕を想って』だ。友也から、告白された時の言葉を思い出す。あの日からずっとわたしの隣にいた友也は、もう居ない。その事実にやっぱり胸は、苦しくなる。
「美織?大丈夫?」
「あ、うん……大丈夫」
「パンジーも綺麗だけど、美織に見せたいのは、こっち」
雪斗が、花壇の前にしゃがみ込むと、パンジーの隣を指差した。
そこには、黄緑色の新芽が、ちょこんと伸びている。
最初のコメントを投稿しよう!