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美織が、足を止めたのは、額装されたA3の写真の前だった。
イニシャルは、『M』。
他の写真に比べて、華やかさもなければ、色味も鮮やかな原色系ではない。
「……これ……」
美織は、そう小さく呟くと、食い入るように暫く見つめてから、俺を振り返った。
「雪斗の写真、綺麗……」
ーーーー(みおり!)
俺の中の誰かが、叫ぶ気がした。
もう二度と美織を手放さないように。
離れないように。
俺は、跳ね上がる心臓をそのままに、美織の隣に並んだ。
「……綺麗だろ、雪景色とスノードロップ」
「……どこで……撮ったの?」
「これは、実家の近く。毎年は帰ってないけど、俺、一人っ子だからさ、親に顔見せに。これ撮った日、日差しが、黄身がかっててさ。真っ白な雪景色が、お日様の絨毯みたいで、思わず撮ったんだ。側に咲いてたスノードロップが、ちょうど花開いてて、撮らずにはいられない景色だったから」
「うん……ずっと見てられるね。不思議だけど、この景色なんだか、すごく懐かしくて。雪の降る街なんて住んでたことないのにね」
美織が、俺の掌に小さな掌を重ねようとして慌てて離した。
「あ、ごめんなさいっ。私、無意識に……」
「いいよ。俺も繋ぎたい」
俺は、美織の掌を掴むと指先を絡めた。
「じゃあ晩飯、何食べたいか考えといて。じゃあ、人物エリアで確認してかえろ」
「うんっ」
美織が俺を見上げながら、目を細めた。
その時、ポケットのスマホが震える。
さりげなく確認すれば、液晶画面に浮かび上がっているのは、『非通知設定』だった。
「雪斗?どしたの?」
「あ、ごめん、仕事の電話。ちょっと先に見てて、すぐ戻るから」
「うん、分かった」
俺は、慌てて会場を出ると、すぐにスマホをスワイプした。
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