第5章 美野里のストーカー

34/36
前へ
/301ページ
次へ
「ンンッ!……助……」   「静かに!」 (え?この声……それに、このフレグランス……) 「暴れないで。そしたら何もしない」 私が、ゆっくり頷くと同時に、掌が離れていく。 振り向けば、黒いズボンに、黒いパーカーを羽織った、桃葉が私を、睨みつけていた。その愛らしい容貌には不似合いの随分とラフな格好だ。まるで変装してるかのように。 「な……何……ですか?」 「今日は、忠告に来たの。雪斗から離れて。二度と近づかないで!」 桃葉は、私の胸元をぐっと掌で突いた。少しよろけて、マリア像の写真の額縁に肩が当たる。 私は、真っ直ぐに桃葉の視線を捉えた。 「桃葉さん……ごめんなさい……それは……できません」  「あのね、雪斗は、美野里さんが、忘れられないの!ちょっと似てるからっていい気にならないで!心臓のお陰のクセに!」 「え?心臓?」 桃葉の大きな瞳が、更に大きくなった。 「あの……桃葉さん?」 「いいからっ……離れてよ!雪斗は、あたしのモノだから!ずっと好きだった!貴方よりもずっとずっと前からっ!」  聞き間違えじゃないはずだ。心臓のお陰とは、どういう意味なんだろうか? 心臓移植を受けた私が、未だに記憶発作を起こしたりすることで雪斗が、病弱でほっとけない同僚として、心配しているだけで、私に特別な気持ちが、ある訳ではないと言いたいのだろうか?
/301ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1648人が本棚に入れています
本棚に追加