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「ンンッ!……助……」
「静かに!」
(え?この声……それに、このフレグランス……)
「暴れないで。そしたら何もしない」
私が、ゆっくり頷くと同時に、掌が離れていく。
振り向けば、黒いズボンに、黒いパーカーを羽織った、桃葉が私を、睨みつけていた。その愛らしい容貌には不似合いの随分とラフな格好だ。まるで変装してるかのように。
「な……何……ですか?」
「今日は、忠告に来たの。雪斗から離れて。二度と近づかないで!」
桃葉は、私の胸元をぐっと掌で突いた。少しよろけて、マリア像の写真の額縁に肩が当たる。
私は、真っ直ぐに桃葉の視線を捉えた。
「桃葉さん……ごめんなさい……それは……できません」
「あのね、雪斗は、美野里さんが、忘れられないの!ちょっと似てるからっていい気にならないで!心臓のお陰のクセに!」
「え?心臓?」
桃葉の大きな瞳が、更に大きくなった。
「あの……桃葉さん?」
「いいからっ……離れてよ!雪斗は、あたしのモノだから!ずっと好きだった!貴方よりもずっとずっと前からっ!」
聞き間違えじゃないはずだ。心臓のお陰とは、どういう意味なんだろうか?
心臓移植を受けた私が、未だに記憶発作を起こしたりすることで雪斗が、病弱でほっとけない同僚として、心配しているだけで、私に特別な気持ちが、ある訳ではないと言いたいのだろうか?
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