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電話の事もあるし、俺の家に泊まるか一応聞いたが、美織は、大丈夫の一点張りだった。
永遠に美織の家に辿り着かなければいいのになんて、子供じみた考えまで浮かんでくる。見えてきた、美織のアパートの郵便受けの下で、俺は、そっと掌を離した。
「戸締まりしっかりな。何かあったらすぐいくから」
「うん……」
美織が、何かを言いにくそうに俺と地面を交互に見つめたいる。
「どした?」
「あの、ね……コーヒーでも……どうかなって……」
思わず美織の言葉を反芻しながら、俺は、口元を覆った。
「……あ、ごめんなさいっ……えと、女の子から、その、こんな事言われると困るよね……忘れて」
美織が、駆け出そうとして、すぐに俺は、美織の手首を捕まえた。
「忘れられる訳ないじゃん。美織ん家寄って帰っていいの?」
「う、ん……」
か細い返事と共にこくんと頷いた美織を抱きしめそうになる衝動を抑えながら、俺は、美織の髪を撫でた。
「えと……」
「じゃあ遠慮なく」
恥ずかしそうに口を結び、俯きがちな美織の後ろについて、俺は、コンクリ階段をタンタンと登っていく。
(……ん?)
俺は、ふいに振り返るとアパートの前の電信柱を見つめた。切れかけた電灯が、チカチカと点滅をくりかえすが、何も見えない。
「雪斗?」
「あ、いや何でもない」
(気のせい、か……?)
誰かに見られているような気がした。電話のせいで神経質になってるのかも、知れない。
(俺が、居るから大丈夫か……)
美織は、絶対遠慮するだろうが、何なら、今夜は、美織の家に泊まって朝まで見張ってもいても構わない。
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