第7章 迫り来る影と守りたい人

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──コンコン。 「はい」 「葉山さん、点滴終わったので外しますね」  「お願いします」 女性看護師は慣れた手つきで私の腕から点滴を外す。 「もうすぐ、夕ご飯を持ってくるので、それまでゆっくしててくださいね」 「はい、ありがとうございます」 女性看護師は私の腕にガーゼを貼り付け、点滴スタンドを抱えて出て行く。友也が部屋を後にしてから30分程経った。あと1時間もしたら、着替えを持って来てくれるはずだ。 「痛……」 ゆっくり起き上がったが体のあちこちが痛む。思わず触れた額は、包帯の上からでも傷口が腫れ熱を帯びているのが分かった。 「でも、どこも折れてないし、とにかく赤ちゃんが無事で良かった……」 私はエコーの写真をなぞると窓の外を眺めた。 「あ、雪……」 気づけば、もう12月も半ばだ。冬空からは小さな白い真綿のような氷の粒が風にのって、ふわふわと舞い降りていく。 「雪斗……」 真っ白な雪を見つめれば、雪斗を思い出す。本当はいま側にいて欲しいのは、顔が見たくて声が聞きたくて堪らないのは雪斗だから。 ふいにベッドサイドに置いていたスマホが震える。届いたメッセージをすぐに開けば、スノードロップの画像と共に文字が並んでいた。 『今から美織に会いに行く。3階の談話室まで来て欲しい』 私は何度もその文字を目でなぞった。そしてベッドから、そっと足を下ろしてみる。身体中は痛むが、歩行は問題なくできそうだ。 『分かった、待ってるね』 私は入院着の上からコートを羽織ると、ポケットにスマホとエコー写真を入れて扉を開けた。
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