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その男の子との楽しい時間はあっという間に過ぎて、明日は自宅に戻る日になっていた。
『そっか。もうあしたからあそべないんだな』
『うん……』
男の子は寂しそうな顔をした。私もほんとはもっと一緒に遊びたかった。もっと一緒に居たかった。
『なぁ、これやるよ』
男の子がポケットから取り出して差し出したのは、小さな雫型の白い石だった。
『わぁ……』
『まえ、みずうみのほとりでみつけたんだ、スノードロップみたいだろ?たべられないけどな』
『ありがとう!ずっとだいじにする』
男の子は少しだけ恥ずかしそうにしながら頭を掻いた。男の子の笑った顔を見ると自然と笑顔になって心がふんわりする。
『ねぇ、なまえおしえて』
『わたしはみおりだよ』
『みおり。もしまたあえたら、おれのおよめさんになって』
『え?』
心臓がとくんと鳴って、男の子の無邪気な笑顔に心がきゅっとなった。心臓の発作じゃない。発作よりもずっとあったかくて、優しい気持ちでそれなのにドキドキしたのを覚えている。
『うん』
『じゃあ、おれのなまえもいっとくな、おれのなまえは……』
そう言って男の子は、私をぎゅっと抱きしめた。お日様みたいな優しい匂いがした。
あの子の名前は何て名前だっただろうか。
どんな顔してただろう。
今思えば私の初恋だったのだろう。未だに忘れた頃に夢の中に彼は現れる。
『みおり。おれのなまえ、スノードロップといっしょだからな。ちゃんとおれのことまってて』
意識はゆっくりと雪が溶けるように、雪がふわりと舞い上がるように緩やかに浮上していく。
ーーーーピピピッと鳴った目覚ましを止めると、私はゆっくりと瞳を開けた。
(久しぶりに見たな。スノードロップの夢)
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