約束を束ねて

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約束を束ねて

桜の木の下には死体が埋まってるという。有名な話だろう。 だから、その桜の木の下から三十一人の死体が出てきても。 全くおかしなことじゃない。 笑い声が聞こえる。 桜の木の下で同窓会を開くという彼らの笑い声が。 もう一度、その桜の木の下で会おうと約束した彼らの声が。 桜ヶ原という小さな町の七不思議、最後の一つ。それは同窓会。 生きてきた間に得た「とっておきの話」を、死後集まった同級生に披露するという同窓会。 彼らは約束した。確かに約束したのだ。 それは、桜の木の根本に埋められた古い缶の中身が物語っている。 いつか埋めたタイムカプセル。今はもうどこにも見られない古いパッケージのお菓子の缶。包装が剥がれ、錆びた金属の缶。 その中に、彼らが書いた「約束」の契約書が入っている。 その契約書の最後には、彼らの名前がずらりと直筆で書かれている。そして。 そして、その名前の上に被さるよう、一人一人の血で印が押されていた。 彼らは誰もその約束から逃れることはできない。 約束は、守らなくてはいけない。誰かが言ったように。 それは、彼らの卒業の日に笑いながら約束したものとは違っているのかもしれない。 だがそれでもいいじゃないか。 結果として、彼らはまた会えるのだから。 また会おうって、約束したじゃないか。だから、それでいいのだ。 彼らはその命を散っていく桜の花びらのように一枚一枚散らしていくだろう。それもまた、風情があっていいのかもしれない。 人の命は儚く散っていく一時のもの。なんとあわれで美しいものか。 契約書は、いつの間にか赤黒い血で染まっていた。
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