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会って話すこと
桜の木の下で私たちは出逢って、遊んで、学んで、一緒の時間を生きてきた。それが一時のことだったとしても、私たちは幸せだった。楽しかった。どこか、懐かしかった。
そういうのを愛しいって言うのかな。すごく、すごく大事で大切な時間だった。
知ってたよ。そんな時間こそずっとは続かないって。楽しい時間ほどあっという間。だから俺たち、みんなで約束をしたんだ。
「またみんなで、ここに集まろう」
同窓会の案内状にも書かれていたアレだね。
ちゃんと覚えてたよ!
忘れるはずないわ!
うん、覚えてた。覚えてるんだ。でもさ、その約束って、ほんとは違うもののはずだったよね。
あー、もっと簡単なやつ?
あれかな? 「選ばれし勇者たちよ、今こそ我が名の元に再び集いたまえ」ってやつ?
あはは! そんな遊びもやったっけ!
あたしはこっちが好きだったなー。「集まれー。そして散れー」
ぶは、集まった意味がない!
それ、集めた集めた!
みんなで集まるんじゃなくて、花びら集める遊びでしょ! それ!
あ、そだったー。間違い間違いテヘ☆
毎日よく飽きずに遊んだよな。散ってく桜の花びら、地面に着く前にどれだけ掴まえられるか、とかさ。
町中探検隊とかガチだった。
うん、マジだった。
その延長の七不思議捜索でしょ?
そうとも言う。
え、そうだったの?
そういう気分の連中もいた。俺がその一人。
あ、実は私もそうだった。
え、君も?
実は僕も。
お前もかよ!
じゃなくて。案内状の文って、もともとは「また明日」の約束だったって話。
「またね」
「また明日」
「また今度」
全部、別れの言葉?
さよならみたいな。
でも「また」っていうからは次を望んでるんでしょ?
そうだよね。次もまた、もう一度っていう願いを込めた別れの言葉。ぼくはそう思うな。
っていうか、明日も集合な! っていう挨拶。決まり文句。実際みんな来てたじゃん。
卒業まではね。
あ、それ言っちゃう?
言う言う。小学校卒業して別のとこ行ったやついただろ? さすがに毎日は会えねえの。
ずっと一緒だったのにね。
高校行ったら更に分断。 残ったの、どんだけいたっけ?
大学行くなら完全に上京の流れだよね。近場で専門すらないから。
「またね」
またねの「また」っていつになるんだよ。って話になってくる。
何日が何週間、何ヵ月、何年になっちゃうのよね。
最後まで誰が残ってた?
あたしじゃないよ。
私でもない。
俺も違う。
誰も、覚えてないの?
「またね」「マタネ」「またね」「マタネ」「またね」「マタネ」「またね」「マタネ」
「絶対に、また会おうね」
「ゼッタイダヨ」
ねえ、誰が私たちをまたここに呼んだの?
え、約束だったでしょ? また会おうって。だからあたし、またここに来たんだよ?
そうだよ。またみんなで集まろうって。みんなで、集まるんだって。
全員が、そう思ってた? 思わなかったやつは?
いないよ。いるわけない。だって、だって!
同窓会の案内状が、来たから。
うん、来たんだよ。同窓会の案内状。みんなで集まる約束を思い出させた。集まれって、誰かが呼んだんだ。
いかなきゃって、思ったの。それを見たとき。
自分の番だって、自分を呼んでるんだって。
誰が、出した?
誰が俺たちに案内状を出した?
え、お前だろ?
違う。俺にも、送られてきた。
じゃああの約束はなかったってこと?
ちゃんと私たち約束したよ! みんなで! あの桜の木の下で、約束した!
同窓会をしようって?
同窓会って、言ったっけ?
誰が言い出したんだよ。
でもさ、確かに集まろうって約束したよね。それが次の日の遊びでも何年後の同窓会でも、変わらないと思わない?
理由はどうあれって?
うん、みんなでまた揃って会えるなら、ぼく理由なんてどうでもいいな。
約束、してなくても?
約束すればさ、約束を守らなきゃって思うでしょ? 守らなかったら罰ゲーム。それがいつものぼくたちでしょ?
そうだね。約束は守らなきゃ。
ちゃんと約束したよ。忘れちゃったの? ほら、あの日。
ああ! あの日! そうだ、俺たち約束した!
あの日、あの日。先生が、亡くなった日?
そう、僕たちの恩師。あの人が亡くなった時、約束したよ。ほら、思い出して。
そうだ、桜の木の下で、約束した。
「約束、シチャッタヨネェ」
だから、私たちのとこに同窓会の案内状が来たの?
約束を守れって?
俺たちが決めたことだよ。みんな納得して、あの約束をした。集まろうって、集まるって約束したんだ。
それで、こうなった?
「最期の同窓会を、みんなで開こう」
こう、なっちゃったんだ。
約束したんだもん、しょうがないよ。
そうだね。みんな一緒だし、いいんじゃない?
「誰が案内状を出したか、知りたくないの?」
犯人探しはしない。みんなで集まって、ワイワイ騒ぐことのどこが悪い?
むしろ、最期に集まれてラッキーって思うくらいがいいんだよ。
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