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七つまでは神のモノ
【幼子を我がものと勘違いし、きちんと向き合わないは傲慢】
「てーーんちょう!
私、言いましたよね?
朝、受診してから出勤するから、開店作業と品出しお願いしますねって!」
「僕は、だから飯塚くんにお願いしたの」
「千代さんは、まだ入って一週間の新人さんですっ!
まだ、研修中なんですっ!!!」
秋になり、後輩も出来た。
店長が、なかなかに抜けて居るのも十二分に理解してしまえるようになった。
「だから、妾が夜中にやろうかと言ったのだが….…」
「オーナー、喋り方!あと、それをやったらいつまでもあなたがたの望むようには、なりません」
オーナーは天然さん、と言うか浮世離れしている。
「だいたい、オーナーは出張どうしたんですか?」
「いや、私は留守居役」
「昨日までは、あんなに張り切っていたのに?私に赤福買って来てくれる話はどうなりました?」
「赤福は、陽月くんと月日さんにお願いしたし」
ボソボソと言い出す。
朝夕のチーフ両名の名前を出し説明をするオーナーは、まるでイタズラが発覚した子供のように見える。
「面倒になったの?オーナー」
「そんなところです」
表情が、スッと抜け落ちる。
こうなるとこれ以上は、話すつもりはないと言う事だ。
「ともかくこの一時間、おふたりでレジお願いしますね。
千代さんに教えながら、品出し終わらせますから」
「「はーい」」
朝と夜のチーフが、ともに本業の都合で遠出しているので、単純に人出不足だ。
この期間ナキメさんは、夕方からの出勤になっている。
その人員的不足を埋めるために、忙しくなる時間と休憩で人手が薄くなる時期を、店長とオーナーが埋めてくれる。
「あの、ごめんなさい」
「いいんですよ、ああなった店長を止めるなんて、まだ無理でしょう」
「まだって」
「いやでも出来る様になっちゃいます。
じゃ、ちゃっちゃと片付けてしまいましょう」
せめて話題の新刊だけでも出さなきゃならない。
今月は、この店は人手不足に陥っているから、嘆いても解決しないのだ。
※
店内に、まだ就学前だろう幼い子供の声が響く。
母親を呼んでいるようなのだが、それらしい返事もない。
千代さんが、困ったように聴いてくる。
「美冬さん、保護したほうがいいでしょうか」
店舗の人手不足などお構いなしに、トラブルは発生するものだ。
[店員]となると[客]は、何か違う生き物のように振る舞うので、トラブル対応には注意が必要になる。
「どうした童。
母御とはぐれたか」
声をかけに行こうと算段をつけていたら、オーナーが先んじて子供の目の前に屈む。
子供は、惚けたようにオーナーの顔をじっと見つめた。
(オーナーってば、また言葉遣い!)
子供の叫び声が無くなっただけで、店内の空気が変わる。
我が子の声が聴こえなくなったことに気づいて、ひとりの買い物客がキョロキョロとあたりを見回しはじめる。
「あーあ、キョウさんてば隠しちゃって」
いつの間にか、カウンター内に来ていた店長が、呑気な声を発する。
相変わらず微笑みを浮かべているような曖昧な表情だ。
キョロキョロと見回す客は、とりあえずレジを済ませようと考えたらしく、セルフレジの列に並ぶ。
その背後に、ぬっとオーナーが子供を連れて現れた。
「やだ!どこ行ってたのよ」
その子は、その客の連れで間違い無かったようだ。
「呼んでいらっしゃったときに、お返事が無かったものですから迷子かと思い警察にお連れしようかと考えておりました。
無事合流出来て良かったです」
何食わぬ顔で、オーナーが流暢に説明する。
「警察なんて、大袈裟な…」
「お子様は、しばらくあなたを呼んで大きな声で居ましたが、お返事もありませんでした。
他のお客様の迷惑にもなりますので、どうぞお子様から目を離さないでください」
「はあ!?
子供の声が迷惑だっての?
これぐらいの子から、目を離さないなんて無理でしょうよ。
アンタみたいな子育てしたことも無いお嬢様には分からないでしょうけど」
オーナーが、見惚れるような微笑を浮かべて客に近づいて何かを囁いた。
すると客の顔色が、サッと青ざめた。
店長は、笑みを深くした。
耳が異様に良いらしい千代さんが、行った。
「『七歳までは神のモノ』ってどういう意味でしょう?」
「子供はね、七つまでは神様のモノですよって意味だよ」
楽しそうに店長は告げた。
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