夏が来れば思い出す怪談話

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夏が来れば思い出す怪談話

 本当に、いかほど大きなお家だったのかと感心するぐらいにこの店は広い。  小さな書店だった頃が、全く思い出せない。 「お住まいが狭くなって、ご不便だったりしませんか?」  そうオーナーに尋ねたのは、夏目前の頃だった。  オーナーは、小首を愛らしく傾げて言った。 「夏希の気配が、常に近くで調子がいい」   惚気かな?  そんな会話をした数日後、朝のチーフ月日さんが困った表情で相談を持ちかけて来た。 「明後日、朝から来れない?」 「明後日ですか?ごめんなさい病院の受診予約している日です」  どんなに急いでも、荷解きには間に合わない。  大型タイトル発売日なのに、その日出勤予定だった学生が、盲腸で病院に担ぎ込まれる騒ぎが、昨日あったばかりだ。 「陽月をなんとか引っ張ってくるか…」 「朝の陽月チーフって、役に立ちますか?」 「アヤベよりはマシでしょ」  自分で言いながらも、自信が無いのだろう。  日月さんは、顔を顰める。  一日中のんびりしている店長と、完全夜型で昼間は不機嫌な陽月チーフ。  悩ましいところだ。  診療をなんとか早めてもらい、最速で出勤するようにしてなんとか乗り越えようと手配をつけて当日を迎えたら、驚く事にキレイに品出しが終わっていた。 「え?どうやって?」 驚いていると、月日さんが渋い表情で説明してくれた。 「陽月を唆した、オーナーの仕業」 どうやら、夜に売り場の場所を空けていて、テンション上がった陽月さんを見て、オーナーが荷物が来た直後に荷解き開始したなら、装飾まで出来てしまうのでは無いかと言う結論に至ったそうだ。 「で、実行してしまったと?」 「明け方に、店に灯りがついて作業していたらご近所迷惑になるのに」 「それを言われると思ってな、キャンプ用のランタン四つで作業をしたぞ」  月日さんは、とうとう頭を抱える。  案の定、常連のお客さま幾人から『夜中に物音がして覗いてみたら、いくつもの灯りが漂っていた。お祓いをした方が良いのではないか』という、有り難い助言を頂いてしまった。  やれば良いと言うモノでは無いという、ご近所に夏の怪談提供をした話。  
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