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生まれ落ちたそのときから個
その子たちは、いつも一緒に来ていた。
小さな頃から3日と空けずに来ていて、ともすれば学生のバイトより店に来ている頻度は高いかも知れない。
二人とも小学校の中学年になったらある日、これまで親御さんと一緒に来ていた彼等が、二人だけで来た。
本日発売されるコミック雑誌を買いに来ようとしたら、親御さん方の都合がつかず二人だけで来るようになったのだと、弟くんが元気にたまたま店内で居合わせた近所の人に説明した。
その間にお兄ちゃんは、首から下げたポーチから小銭を出してセルフレジでさっさと会計を済ませる。
その日以来、時折彼等は二人だけで来るようになった。
お小遣い制を導入したようで、二人はそれぞれお揃いのポーチとキッズ携帯を首から下げて来る。
(珍しい)
弟くんがグズっているのはよく見ていたが、お兄ちゃんはいつもにこにこと穏やかに笑っている印象しかなかいので、思わず注視する。
「お前のお守りは、もう嫌なんだよ!ひとりでだって来れるだろ」
「なんだよ、にいちゃんだって読むだろ」
「もう読まないよ、今日は友だちの家に遊びに行く約束してたんだ。
なのに、お前は話を聴かないでぐずぐずするし、ウンザリだ。
ただ来たいだけだったなら、付き合わせるなよ」
(ああ、我慢してたのか)
少し前までは、ふたり一緒にコミック雑誌やコミックスの棚で楽しそうにしていたのだが、最近はお兄ちゃんはサッカー雑誌やサッカーのルールブックを物色している事が多くなったのが、脳裏をよぎる。
スタッフ一同、声をかけるべきかそわそわしていると、当店二大麗人である朝夕の両チーフが妙に頷いている。
ふたりは男女の双子だ。
「分かる。姉だというだけで、なんでも正しく決めて引っ張って行けと言われるのは、ときに苦痛だったわ」
と、これは朝番のチーフ月日さん。
「姉が決めたことに、なんでもついて行けって言われていたのに、弟のやんちゃに嫌気がさしたこの人が部屋に篭城したのを、どうにかしろと言われてあたふたしたのは、苦い思い出です。
いちいち苛烈なんですよ」
と夜番チーフの陽月さん。
「あらぁ、眩しいわねぇ」
千代さんののんびりした発言に、無言で頷く。
「兄弟と言えど、個々の別の存在だからな。
いつまでも一緒というわけでもないさ」
「現に、私たちの末の弟は我々とは別の道を進んでいるからね」
「だけど、此奴らの姉という土台が無ければ、私は私ではないだろうし、別の役割を与えられて居たのだろうから、やはりともに生まれ落ちて良かったと思っているよ」
「お兄ちゃんは、お友だちと約束があったそうですよ」
「….…さいきん、兄ちゃんが友だちとばかり遊んでつまらない」
ボソリと、弟くんが呟く。
お兄ちゃんの目が丸くなる。
「だから、邪魔した。ごめん」
「おまえさあ」
お兄ちゃんは、呆れたように頭を掻く。
「じゃあ、一緒に行けばいいじゃん」
言うなりお兄ちゃんは、キッズ携帯をいじる。
「だって….…」
「ほら、来ていいってさ行こう。
お騒がせして、ごめんなさい。
また、明日来ます」
お兄ちゃんは、そうペコリと頭を下げると弟くんの手を引いて慌ただしく出ていった。
「なんで明日?」
陽月さんの疑問に、月日さん千代さん私の三人は、声を揃えて応えた。
「「「◯◯コミック発売日です」」」
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