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目安箱もはいからにデジタルの波に乗る
「『カフェを併設して欲しい』
カフェってツラかよ、お前らが」
事務所で休憩中の私の前で、ケタケタと品なく笑うのは、当店の朝夕の両チーフの弟さんだ。
「本をゆっくり選びたいって事でしょうね」
「ゆっくりねぇ」
半笑いで彼は紙を弾く。
「なんだ、哲進きていたの」
陽月さんが出勤してきて、静かに言った。
「人が足りねーから、来いって言ったの兄貴だろ」
「いつもすまないね」
陽月さんの
哲進さんは、ヘルプとしてたまにシフトを埋めてくれるスタッフでもある。
普段、なんの仕事をしているかは誰も知らない。
けれどうちのお店に欠員がでたり、人が少なくてどうにもならない時には高い確率で来てくれる。
そんな彼が目を通しているのは、定期的にアプリで行われているお客様アンケートの回答だ。
加盟チェーンのシステムで、回答するとポイントが貰える。
「ま、アプリ入れてポイントと聞けば何でもかんでも深く考えないでやる奴らなんか、この店の客の一部にすぎねぇよ」
ニヤリとわらうと、控えめに言って人相がよろしくない。
休憩に入って、すぐに目を通した。
名指しで「態度が気に入らない」「辞めろ」
「すましたツラで何様のつもりだ」と書かれていた。
「落ち込む価値なんか、ねーよ」
口調こそ乱暴だが、哲進さんは優しい。
「宇津木さん、なんか書かれてたの?」
「気にしていませんよ」
嘘だ。
誰に不快感を与えたのも、気にならないわけない。
「夏希に言っておかなきゃな、多分うっかりしただろうけど…」
「はい?」
「名指しのものは、省くなり伏せるなりするように言ってあるんだよ。
私たちも、あまり気持ちの良いものではない意見が多いからね」
陽月さんをはじめ、うちの店は美形が多い。
本屋なのに、外見審査もあるのではないかと疑いたくなるくらいに。
その点において私が働いているのは、自分でも間違いだと思っている。
「兄貴、コイツ要らん事考えてるぜ」
「いち意見として聴いておけば良いんだよ。
君が真摯に勤めてくれているのは、私も月日も承知しているからね」
「そうだぜ、そんなに気に食わねーなら、うちの店を使わなきゃいいし、宇津木の接客が気に入らねーなら、関わらなきゃ良いんだ。
名前を名乗らねぇところで、漠然と不満を訴えてくる奴らの言うことなんざ、気にすることねぇだろ」
陽月さんは、微笑んで頷く。
「これ見てくれよ、兄貴。
マジうぜぇんだ」
どれどれと覗き込んだ陽月さんは、眉を顰めた。
「カフェ…
まず、本を丁寧に扱う事を覚えてから言って欲しいものだね」
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