ビターオレンジ

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 クラスで一番の人気者の修司に告白された。私のテンションは最高潮に盛り上がり、そのまま空だって飛べるんじゃないかと思う程だった。中学二年生になり、そろそろ彼氏の一人でもって思っていた矢先のまさかのサプライズで、私はきっと前世で相当な徳を積んだんだなって自分に言い聞かせていた。クラス内の序列においても精々一軍半の自分に、ピラミッドの頂点に君臨する修司がまさかの告白。私の返事は決まりきっていたのに、敢えて「少し考えさせて」とワンクッション置いた。 『色々考えたんだけど、私も修司が好き』って伝える。そんな近い未来を自分の中で描いていたからだ。修司も何となく私の意図を察してくれたのか、「分かった。待ってる」と笑顔で言ってくれた。そのままのテンションで自宅に帰ると、母から水を差す様な言葉を投げ掛けられた。 「明日から家庭教師が家に来るから」  はっ? 家庭教師?   って正直思った。今の私は修司の事で頭が一杯でそれどころではない。学生の本分として勉強は大事だが、それよりももっと大事な事がある。今まさに私はその状況の中を生きている。邪魔をしないでくれお母さん。 「そんないきなり言われても困るよ」  私は不満を述べる。母は昔から家族に対して事後報告する傾向があったが、今だけはやめてくれよって思った。修司の事で夢見心地な自分を一気に現実に引き戻さないでくれ。私は切にそう思った。 「あんたの成績が落ちてきたからだよ。来年はもう受験生なんだから今から準備しておかないと」  悪びれもなくそう言い放つ母に向かって心の中で舌打ちをする。全く気が乗らなかったし、中二の夏休み前から受験の準備とか早すぎるだろって思った。せっかく私は修司との淡い夏休みの計画を今から立てようと考えていたのに。でも、いくら私が嫌だと言ってもこれはもう決定事項だ。この決定が覆る事はない。私は仕方なく母に向かって「分かったよ」って返事をして自室に籠もった。
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