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「なるほど。国語と社会が4でそれ以外が3ですか。典型的な文系ですね。僕と同じです。僕も国語と社会が得意なんですよ」
そう言うと男性はニコリと笑った。僕と同じって言葉が妙に鮮明に鼓膜に届いて、私は何故だか恥ずかしくなった。恐らく男性は私に気を遣って歩み寄って来てくれている。だけど私は決して悪感情は無いのだけれど、それに応えられないでいる。何も言えないでいる私を見ても男性は決して笑顔を崩そうとしない。その笑顔があまりにも眩しくて私には直視できない。
「数学と英語の成績が落ちてきたんです。一年生の時は毎回4だったのに」
母の返答が私への助け舟の様に感じられた。やはり年の功というものなのだろうか? 母は何の抵抗もなく男性と言葉を交わしている。あまりにも淀みなく会話を続ける二人に、私は羨望の眼差しを向けると同時に自分の幼さを実感していた。
「あー、中二からその二科目は難易度が一気に上がりますからね。でも一年生の時に4を取れていたのなら、ちょっと勉強法を工夫するだけですぐに取り戻せると思いますよ。それで得意科目の国語と社会は5を目指しましょう。僕、中学と高校でその二科目は5しか取った事ないので、多分狙えると思います」
私の方向性を瞬時に示してくれた男性は、ハッと何かを思い出した様に紙袋を差し出してきた。
「すみません。これ忘れてました。今日からお世話になるので、そんなに大した物じゃないんですけど」
「そんな。寧ろお世話になるのはこちらの方なのに」
母が申し訳なさそうに受け取ると、男性は更に言葉を続けた。
「こんな夏前なのにガトーショコラで申し訳ないです。冷やして食べても美味しいガトーショコラで、オレンジの味が効いてて僕のお気に入りなんです。今日は割と涼しいから大丈夫だと思うんですけど、ちゃんと保冷剤も入れてきました」
手土産が妙にお洒落な物で驚いた。冷やして食べるガトーショコラなんて誰かから貰った覚えもない。ただ、男性の中性的な風貌にガトーショコラは妙にマッチしていた。私がぼんやりと手土産を眺めていると、男性は再度私に話し掛けてきた。
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