ビターオレンジ

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「涼夏ちゃんは甘い物好き?」  突然話し掛けられて私は軽くパニックになった。確実にこの時、私の目は泳いでいたと思う。そんな私を男性は優しく見つめている。流石にこれは何か返さないといけないと思った私は、意を決して言葉を発する。 「あの……えっと……すっ、好きです」  思った以上に自分から大きな声が発せられて、自分自身驚いた。微笑みながらも少し驚いた顔をしている男性を見て、途端に恥ずかしくなる。母は私の隣でほくそ笑んでいる。 「告白かお前は」と母がツッコミを入れてくる。一瞬、意味が分からなかった私は自分が発した言葉を頭の中でもう一度反復する。  あっ……  きっと普通に返答ができていたら、こんなツッコミを入れられる事は無かっただろう。ただ、私があまりにも辿々しく、恥じらいを持って言葉を発したものだから、そこだけ切り取るとまるで愛の告白をしている様だった。ただでさえ熱くなっていた私の顔が、さらに燃え上がる様に熱くなっていく。そんな私の様子を見て、男性は気を遣いながら語り掛けてくる。 「大丈夫。ちゃんと甘い物が好きって伝わっているよ」 「あっ……えっと……ありがとうございます」  物凄くぎこちなくではあるが、初めて男性と言葉のキャッチボールができた。私はほんの少し安堵する。告白未遂的な事をした直後にしては上手く言葉を紡ぐ事ができたからだ。それが他人から見れば物凄く辿々しかったとしても、私は自分自身を褒めてやりたい。 「ごめんなさいねぇ。この子、こんな子で」  母が苦笑いしながら男性にそう言うと、男性は「いやいや、凄く可愛い子じゃないですか」と返事をした。  男性の言葉の中の可愛いというフレーズに、私の鼓膜は敏感に反応する。口癖の様に可愛いというフレーズを口にする女子は多いが、中学生の男子は恥じらいからかそのフレーズを滅多に口にしない。男性は何の抵抗も淀みもなく、さも当たり前かの様にそのフレーズを口にした。ふと自分の耳を触ると、耳まで熱を帯びている事に驚いた。
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