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「えっと、副教科の成績についても聞いて良いですか?」
私の様子を他所に男性は会話の内容を勉強へと改めた。頭の中では男性が先程発した可愛いという言葉が反響したままだ。私の意識は勉強とはかけ離れた場所に置き去りにされていて、二人が私の事を話しているにも関わらず、何処か他人事の様に聞いていた。
「副教科はオール3です。この子、副教科は全く勉強していなくて」
「なるほどですね。内申点という評価項目で、副教科も5教科と基本的に同じ扱いをされるんですよ。だから範囲も狭く点数の取りやすい副教科は逆に稼ぎ所だったりするので、そこもきっちり伸ばしていきましょう。僕がしっかりとサポートしますので」
「えっ? 副教科も教えて頂けるんですか?」
「はい。僕は勉強も勿論教えますが、基本的には勉強法を教える家庭教師なんです。だから全教科対応しますよ」
母と男性の間でどんどんと話が進んでいく。その間、私は二人の顔を交互に見る事しかできないでいる。男性の言葉に母が良い意味での驚きの表情を浮かべていたのが印象的だ。家族として約14年間一緒に暮らしてきたから分かる。母はこの男性の事を間違いなく気に入っている。
その後も母と男性の間で色々と会話が交わされていたが、内容はあまり頭に入ってこなかった。しかし、次の瞬間、男性から発せられた言葉に私は再度ドキリとさせられた。
「では、早速授業を始めていきましょうか? 今日は勉強よりもお互いを知る事を中心にいこうと思います。信頼関係を作る事って成績を伸ばす上で必須なので。授業はここでやりますか?それとも涼夏ちゃんの部屋でやりますか?」
これは流石にまずい。いきなり部屋で二人きりは私にとってハードルが高過ぎる。私は助けを乞う目で母を見つめる。母は私の意を察したのか邪な笑みを浮かべる。案の定、母は私の意に反した言葉を言い放った。
「この子の部屋でお願いします」
満面の笑みでそう答えた母に殺意を覚えた。絶対に許さない。
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