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私の部屋は二階にある為、先導をしながら階段を上る。後に続くトントンという階段を上る音が妙に生々しくて、私の心臓は張り裂けそうになる。部屋のドアを開けて入室すると、男性はかろうじて私に聞こえるぐらいの声量で「お邪魔します」と言った。
勉強机ではなくテーブルで授業をする事にしていたので、私達は二人して床に座り、テーブルを挟んで向かい合う。私は恥ずかしさから俯いていたけれど、ふと顔を上げると男性は真っ直ぐ私を見つめながら微笑んでいる。
さっきまでよりも物理的にも心理的にも距離が近い。改めて男性の顔をよく見てみると、本当に綺麗な顔をしている。パッチリとした二重瞼にスッと通った鼻筋、色白で細く整った輪郭にそれを支えている長い首。見れば見るほど作り物の様に非現実的で彫刻の様である。
「涼夏ちゃん、あんまり見つめないでよ。照れちゃう」
男性が冗談っぽく言った言葉に私は顔が熱くなった。自分が思っていた以上に凝視してしまっていた様で、私は自分の愚かさに穴があったら入りたくなった。
「ごっごめんなさい」
「ううん。冗談だよ。ちょっとだけ話そっか?」
私は一体何を話したら良いのだろう? 上手く言葉を紡ぐ自信がない。でも、人が話し掛けてくれているのに無言を貫くのは人として駄目だと思う。私は男性から発せられる言葉に必死に喰らい付こうと心に決めた。
「まず改めまして自己紹介ね、沢村俊介です。年齢は20歳で大学二年生。趣味は服の買い物と猫カフェ巡り。涼夏ちゃんの事も聞かせてくれる?」
「佐々木涼夏です。年齢は14歳で中学二年生。趣味は音楽鑑賞でYOASOBIの歌をよく聴いています」
「へーっ。YOASOBIの曲いいよね。あの夢をなぞってとか僕めっちゃ聴いてるよ」
「あっ、私もあの夢をなぞってが一番好きなんです」
「おっ気が合うじゃん。僕もあの曲が一番好き」
気付けばスムーズに会話ができていた。きっと、私はそう導かれていた。
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