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チョコを渡せる最後の機会だったのに、中村先輩に渡せなかった。
「中村先輩さ、紙袋にチョコがいっぱい入ってて。周りに女子もいっぱいいて。あんなに意気込んでいたのに、声かけられなかったんだ……」
「そっか……」
神谷くんはあれこれ詮索はしてこず、黙って上履きを脱いだ。いつもの神谷くんなら、絶対冷やかしてくると思ったのに。
「あ、神谷くん」
私はカバンを開けてチョコを探した。
「これあげるよ」
中村先輩にあげるはずだったチョコを、神谷くんに差し出した。
「え、いいの?」
一瞬怯んでいたけど、受け取ってくれた。
「いいよ。もったいないし」
しばらくチョコを眺めて、「ありがとね」と、少し笑ってカバンに収めた。
神谷くんのカバンには、私があげたチョコが入っている。
神谷くんと話したら、ちょっとスッキリした気がして、中村先輩には渡せなかったけど、まぁ仕方ないかなと、自分の中では片がついた。
昇降口を出ると、北風が吹いた。雲間から陽が差して、思っていたよりも少し暖かく感じる。
「今日はなんか暖かいね」
「そうだね」
神谷くんは両手を上げて、伸びをした。
「有坂、あのさ」
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