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「失礼。両閣下。それでは当面、ジェイド家嫡子ルピナス様とエスト家次女ミュゼル様は、秋口までは王都で婚約お披露目を兼ねてお過ごしになること。挙式は再来年の晩夏、ジェイド公爵領にて。おふたりともにそれまではジェイド公爵家を基盤に準備していただくと。――よろしいですね?」
「ええ」
「そのように」
鷹揚に頷く貴人ふたりに、エスト家側の立会人が恭しく一礼する。
同様の写しはこちらにもあった。
口頭での確認で、今日の両家の私的なつとめは終了。
国王からの許可はとっくに降りており、順風満帆な若い令息令嬢であった…………のだが。
ふと、退室のための扉をひらくイゾルデに、ミュラーは声をかけた。
「あの。じつは、今朝から娘の姿がないのですが。王都北公邸に?」
「? いいえ。そういえば息子も見ておりませんが」
「あっ。あの……申し訳ありません。お二方でしたら」
そのとき、扉を押さえていた王城内侍官がおそるおそる発言した。超大物の二名から見つめられ、冷や汗をかきながら続ける。
「今朝ほど、第二王子トール殿下より招致があったと。たいへん早い時刻にお越しでした。いまごろ、トール殿下の研究棟かと思われます」
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