13 危ないのはどちら?

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 同じころ、玉座の間ではオーディン王とセネレ王妃、主だった重臣がたに、段の下で片膝をつくクロエがいた。まだ『昼の』彼女だ。  その後方にはルピナスとミュゼルが控えている。  クロエの「とにかく、国王陛下に目通りを」という願いを最短で叶えたのが彼ら二人だった。それぞれの公爵家の権力は、こういうときに遺憾なく発揮される。 「(おもて)を上げなさい、クロエ殿」 「は。国王陛下におかれましては、謁見を賜り恐悦至極でございます。けれど、いまは囚われのご子息について速やかにご報告したいことが」 「それだ。おかしいとは思っていた。王家の能力(ギフト)を使えばすぐに出られるはずなのに。心当たりが?」 「はい」  俯き加減のクロエが唇を噛む。  発言を許されているのは、いまはクロエだけ。  傍らのルピナスとミュゼルは、黙って見守ることしかできない。  クロエは自身が『ドリュアド』という種族であること。植物の思念をある程度読めること。  現在トールの塔を覆ってしまったのは彼の月華草であること。また、それはすでに変異しており、王子の“転移”を何かしらの効力をもって封じているのでは――という推論まで叩き出した。 「なんと」  居並ぶ面々に緊張が走る。  皆、心のどこかで「トール王子だから」と緩く構えていた。それだけ、ふだんから想像の斜め上をゆく前科を量産されたかたなのだが。 (〜〜どうしよう。物理で押し通る? それとも陛下ご自身が魔法を……? クロエ殿は『できれば月華草のドリュアドと名乗りたくない』と、仰っていたけれど)  やきもきと気を揉むミュゼルに視線を流し、ルピナスは意を決したように前に進み出た。「畏れながら」 「申してみよ」 「は。私も先ほど塔の様子を見て参りましたが、あれでは流石のトール王子も難儀でしょう。ならば、こちらのクロエ殿に協力を仰がれては」 「! ジェイド家の若君」  はっ、と、クロエが暗緑色の瞳をみはる。  ルピナスは頷きながらクロエを見つめ返した。 「直接、()()に包囲を解くよう働きかけていただくのです。トール王子たちの無事を最優先に……――うっかり、塔の危険な種子や薬品などを使って、王子が無双してしまわれないうちに」
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