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「落ち着こう。一度、深呼吸をして」
彼は私の事を抱き寄せた。ずるい。本当に。
彼の事をキライになりたくて、許さないつもりなのに、これじゃあもっと好きになる。
ううん。違う。彼を許さないようにしようと思ったときからまた好きになっている。
好きな人に縋り付いて涙を流し続けてしまった。
「勘違いだよ。本屋で会ったのは多分、俺の姉ちゃんだよ。参考書を探したいから車を出してもらったんだ」
馬鹿な言い訳とは違う。確かに彼には姉が居るのを知っている。それに今思うと似ている気がした。
「でも、好きな人と同じ学校にって」
疑問が浮かんでさっきまでと違って勝手に言葉になっていた。
「そんな事まで聞かれてたの?」
彼は離れると一度照れ臭そうに笑った。
「俺って弱っちいんだ。だから芯の強い人を望んだ。笑顔を見ているのが楽しい。話をすると明るくなるのが嬉しいんだ。そして君がそうだ」
疑問があれこれと浮かぶ。なんだかもう意味が解らなくなった。
「それってどういう事?」
一度彼は足元を見てから深呼吸をして私の事を見つめた。
「こんな風に気軽に話せる関係を壊すのが怖かった。それでも言わないともうダメなんだよね。俺は君の事が好きなんだ。みんなに答えた事も、同じ学校に進みたいのも全部、今目の前に居る人の事だよ。付き合いたい」
急転直下。全く訳が分からない。私は彼の理想から離れてると思っていたのに、彼はそんな風に思ってなかったらしい。これは夢じゃないんだろうか。
「嘘じゃないよね?」
彼に確かめながら私は自分の頬を抓ってみる。痛い。いつもの現実だった。
「君の親友は気付いてると思ったのにな」
解っていなかったのは私だけなのかもしれない。そうじゃない。彼と二人だけが間違えていたのかもしれない。二人でお喋りの集まりに戻ったら笑われるのかもしれない。でもそれでも良いかも。彼の事はもう許している。許さない訳がない。
「悪いけれど答えが聞きたいな」
なんだか返事をするのを忘れていた。
「こんな願われるなら断るなんて事を無いかな」
良い返事が思いつかなくてたどたどしい雰囲気しかないのに冗談を含めた言葉に頷いてくれた。私の心がうれしい。向かい会っている人がうれしそうに笑っている。
おわり
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