心許帳綴

8/10
前へ
/10ページ
次へ
「許さないことなんて出来ないよ」  放課後久し振りに勉強をしないで親友に縋った。彼の事をキライになんてなれない。 「そんなに好きなの?」 「うん。忘れたくない」  彼女の問いにはすぐに答える。それが私の本心だから。 「彼も幸せな人間だね。こんなに愛してくれる人が居るなんて」  ちょっとため息交じりだけど、私の事を笑っているのでもけなしているのでもない。「あたしも誰かにそんなに思われたいよ」なんて言うから彼の事をうらやましく思っているみたい。 「そして貴方も素敵な人だと思うよ。あたしも好きな思いがそれだけ続いたら良いんだけどな。それはメリットなんだよ」 「だけど、私は損な生き方だと思ってる」  叶わない恋なんて彼女の様に直ぐに忘れられたほうが楽だ。それは確実に言える。今の私がとても辛いから。 「方法は一つしかないと思うよ」 「忘れられる?」  夢の魔法のような事が有るのなら知りたい。彼を好きな思いを忘れるのは怖いけれど、辛くて、そして恨む様なことはもっと御免だ。 「一度当たるしかないよ」  意味は直ぐに分かった。分かったけれどそんな勇気はない。 「駄目。今は話したくない!」 「逃げても人生なんてどうにかなる事ばっかりだよ。だけど今はそうじゃない。立ち向かわないと」  私は腕を掴まれて彼女に連れられた。恐らく彼の居るところに。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加