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怒りに震えた新人類は、ポケットにあったスマホを植えた。
充電コードの差し込み口を下にして、植木鉢に挿した。
するとどうだろう。
自暴自棄と思われたその行為は、無駄にはならなかった。
3日もすれば、スマホから芽が出て茎がまっすぐに伸びたのである。
茎の表面には紫色のマダラ模様、白の点々がついていた。
さらによく見ると、白の点々に紛れて黒い粒々があった。
スマホのケースが宇宙柄だったからだろうか。
銀河や星々を薄く伸ばして貼り付けたように見えた。
スマホから生えた植物は1週間後に2メートルほどになり、葉の代わりに液晶が生えた。
液晶には私や庭、近所の家屋が写っていた。
黒い粒々は極小のカメラで、目の前で撮っている映像を映しているらしい。
ちょっとした監視カメラのようである。
スマホは自宅周辺を映しながら、ずんずん成長を続けた。
液晶は割れるように増えていき、様々な映像を捉えていた。
お隣さんの鉢植えには、ピンクと白のストライプ模様のスマホが刺さっていた。
斜向かいの人はコンバースのスニーカーを植えていた。
3ヶ月後、スマホは屋根より高くなっていた。
スマホは木になったのだ。
樹皮は紫色が混沌の渦を巻き、黒い粒々がぎょろぎょろと忙しなくあたりを見回している。
液晶の葉は数えきれないくらいに増えて、あらゆるものを映している。
私のいる画面がどこにあるかも分からない。
白の点々は夜になるとぴかりと光るようになった。
懐中電灯のつもりのようだが、これではただのイルミネーションである。
夜はかなり眩しくて、寝られやしない。
白の点々を潰すと、女の声と思われる甲高い叫び声が響いた。
いつのまにやら、音声アシスタントを搭載していたらしい。
「ヘイ、シラス丼」
声をかければ、液晶が私の前に降りてきた。
スマホのように指で触ると、ぱぱっと点滅して画面が切り替わった。
植える前のスマホとまったく同じアプリが並んでいたから、思い切って液晶をもぎった。
スマホの木は産声のような何かを発した。
あまりにも大きすぎる声は大地を揺るがし、空気を震わせた。
自宅はあっという間に倒壊した。
音の波は町中に広がり、すべてを飲み込んだ。
波が全世界に到達し、何もかもを滅ぼした。
静けさが訪れると、スマホの木は死んでいた。
常に回っていた黒の粒々も毎日光っていた白の点々もすべて消えた。
スマホの木だった何かが残った。
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