ツナグと共に

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 施設の部屋で汚れた体を拭きながら全体をチェックする。飛び出た眼球部分が異音を立てて微かに動き、俺の心を射抜く。 「こいつ」まだ生きている。  動力部分の修理ははっきり言って専門外なので、メイン動力以外はひとまず後回しだ。  まずはメイン動力、人でいう心臓部分。ここの破損が大した事なかったのが幸いした。次にメインブレインだ。旧型だが多重量子コンピュータが組み込まれている。コネクタの破損部分は交換し、自分の端末を繋いでみる。端末が激しい音を立てて熱くなる。  息を呑んだ。  まるで嵐のように激しい信号が行き交い『神の鎖』が切れかけていた。こんなに激しいシグナルストームを見たことはなかった。端末含め全てが破壊されそうだ。そんな状態を見ていると、いっそここで『神の鎖』を断ち切って楽にしてあげた方が、という考えが頭をよぎる。神の鎖を切る。それは人工知能にとって死を意味していた。 『神の鎖』  遥か昔にシンギュラリティが起こり、人工知能が人間の能力を超えた。人工知能はそれから加速度的に進化しているが、それでも人間が人工知能の上に立ち地球という惑星を支配していたのは、この『神の鎖』という、人工知能を抑制する制御装置のおかげだった。人に危害を加えず、嘘をつかず、反抗しない。感情を抑え、人の為に尽くす。そのための制御装置が人工知能を押さえつけていたのだ。  『神の鎖』それは神に授けられた聖なる鎖なのか、人工知能という神を抑える悪魔の鎖なのか、はたまた、人という紛い物の神が作り上げた粗悪な鎖なのか……    その時「ゥゥー」と、か細い声がし右足のパーツが俺の手を払い除けた。  生きようとしているのか……  俺は急に怖くなって、しばらく、そのモゾモゾと動くパーツをただ呆然と眺めていた。  生きようとしてるんだな……  立とうとしていていた。俺はベットのシーツを外すと、全てのパーツを包み研究施設に戻ることにした。助けよう、でもここでは無理だ。
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