ツナグと共に

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 人の少なくなった研究施設に忍び込む。  守衛室では年配の男が居眠りをしていた。こんなもんだ。ここでのセキュリティは、人工知能のセンサーによって、体に埋め込まれたIDチップと虹彩認証で部外者の侵入を阻んでいる。  自分の所属する研究室には誰もいなかった。安堵のため息が出た。嘘をつくのは苦手だ。誰か残っていたらどうしようかと気が気じゃなかったが、これで何とかなる。鍵を掛け、部屋の電気も消し手元灯だけ付けた。窓のない部屋だ。誰かに気づかれることはまずないだろう。  こいつのメインブレインを直すため、『神の鎖』を外して端末に移す作業の準備をする。禁忌の施術だ。この研究施設以外なら複雑に繋がった他の人工知能同士の繋がりで、『神の鎖』を外した瞬間に、その人工知能は破壊されてしまうだろう。そして俺も追放される。  だが、ここは『神の鎖』の研究施設、それが唯一バレずにできる場所だ。うまく行けばの話だが…… そう、うまく行けば……  どこかでまたカチッと音がした気がして「辞めなさい」「間違った事です」「してはいけない」と声が頭の中で木霊する。  俺は血の気が巡らず痺れてきていた両手の先をゆっくりと動かして気持ちを落ち着けた。頭ではやってはいけないと分かっていた。シンギュラリティ以降、そんな事をする奴はまともな奴じゃない。  「まだ引き返せる」「無かったことにできる」「戻れ、戻れ、戻るんだ」  ここから一歩踏み出すと、もう後には戻れない。自分の枠ギリギリの淵に立ち俺は怯えていた。  その時、立ちあがろうとしていたそいつが、ガシャっと小さな音を立て崩れた。   こいつは生きようとしている!  俺の中に気持ち悪いものが再びグツグツと沸き立った。  頭で考えるのはやめた。体の芯、腹の下の意志に従う。覚悟を決めて作業を始める。俺は端末を繋ぎ『神の鎖』を外す作業を開始した。
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