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「どうした、大丈夫か? 顔が真っ青だぜ」
「ここん所、煮詰まっててね。とにかく早く帰って休むよ」
カバンから血が滲み出て来ていた。もう後ろは振り返れない。俺は最後の気力を振り絞って立ち上がると歩みを進めた。16歩、17歩、18歩。角を曲がり守衛に見えない所まできた。
出た、出たぞ!!
喜びと共に視界が揺らぎ、もう動けそうにない絶望が頭に浮かんだ。もうダメだ。やはり部屋までは戻れないか。
だとしたら……
俺は研究施設の脇に広がる雑木林の中にパーカーとカバン以外、血のついたタオルや雑巾を捨てた。そして雑木林の下の公園につながる階段を、一歩一歩踏み締めて歩いて行った。
一番下で右手を巻いたパーカーを外す。そして拳より大きめの石を左手で取って、思い切り右手に打ち付けた。息が止まる。だが、ツナグの歯形を消さなければ。俺は最後の力を振り絞って、もう一度石を打ちつけた。
記憶がなくなる様な痛みを抱え、地べたに崩れ落ちる。これで、階段から転げ落ちことで落ちた様に見えるだろうか?
その後全力で叫んで人を呼ぶはずだったが。声を挙げる事すら叶わなかった。
「だ、誰か……」
もう何も出来なかった。ただ目の前の地面を蟻が歩いて行った。その様子をただ目で追いかけた。ツナグもこんな感じだったんだろうか?
そんな事を考えながら、俺はそのまま気絶した。
次に気がついた時、俺の目の前には白い天井があった。
柔らかいベットの上に寝ていた。左手に点滴が打たれ、医療器具らしい装置が色々取り付けられていた。一瞬、俺の身に何が起こったのか、どうしてここにいるのか全く分からなくなり混乱する。だが次の瞬間、右手の激痛がツナグとの全てを思い出させてくれた。
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