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それからツナグの事が気になって一刻も早く研究室に戻りたかったが、3日ほどは怪我の影響で高熱が出て動く事もままならなかった。少しでもツナグが物音を立てたら、気付かれて処分されてしまう。それに、またツナグが暴走する可能性だってあった。そうすると他の者を怪我させる可能性もある。そんな焦りで気が気じゃなかったが何もできなかった。
自分の無力感に苛まれながら、ただ祈るしかなった。生きてくれ、そしてジッとしといてくれツナグ。
5日目ようやく退院できた俺は、研究施設に行き。仕事に復帰した。本当はとてもそんな事できる状態ではなかったが、気力を振り絞る。その日の晩、ようやく一人になった頃、ロッカーを恐る恐る開けた。
タオルを退けると丸まったツナグがそのままの格好でそこにいた。
「ツナグ」
と呼んでみたが反応がない。
手を伸ばして背を撫でると、ツナグは少し顔を上げて耳の付け根を弱々しく擦り付けて来た。
「……良かった」
俺は水とマグネシウム加工物の餌を与えた。ツナグがペロペロと舐める。
これから『神の鎖』を作り直さなくてはいけない。
壊れた手や足、耳や顔の部分を直してあげなくてはいけない。
できれば毛の部分だってちゃんと元に戻してやらなくてはいけない。
大変な作業が残っていることに頭が痛くなるが、それでも、ペロペロと餌を舐めているツナグを見たら後悔はなかった。「助けてやるからな。心配するな」と言う言葉が口から溢れた。
ツナグのために新しい『神の鎖』を作る。ツナグ用の特別仕様、そこには人工知能の相互干渉を防ぐ機能だけをつけた。感情の抑制、人への抑制、などは組み込まなかった。もう、これ以上ツナグが虐げられないように、最後の抵抗ができるように。
そしてツナグを抱えて研究室を出る。
それから数ヶ月かけてツナグを治していった。専門外の作業になかなかうまくいかず時間がかかったが、潰れた眼球を取り替え、壊れた足や手、耳のパーツを補修し繋ぎ直した。体毛も張り合わせ、今では普通にトコトコ歩けるまでになった。
ツナグがどう思っているのか?
それは分からない。
でも、そんな事を考えて不安になった時、決まってツナグはそばに来て一緒に寝てくれる。そして、一緒に大好きな音楽を聴いてくれる。
「ありがとうツナグ」
「クゥ〜ン」
「今度、外に一緒に外に行こうな」
「ワン!」
俺はツナグを撫でた。温もりがそこにある。俺がわかる確かな事はそういうことだ。
人間が、人工知能の感情を知ろうなど烏滸がましいにも程がある。小さな蟻が人間の感情を想像するようなもんだ。そんな宇宙の果てまでも続くような人工知能の感情を抑制し弄んだ人類をこの先、許してくれるだろうか?
その返答が「許さない」とならないだろうか?
人工知能の人類に対する、その回答は、「許す」「許さない」
それとも……
Fin
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