1章

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 あのキレイな景色がオレを半年だけならこの姿のままでいてもいいかなと思わせた。どうせしばらくこの姿を借りるなら、この姿に準じたしきたりに慣れなきゃいけない。ならば挨拶回りをしよう。近くのやつに片っ端から声をかけてみた。おかしい。誰一人として返事をするものがいない。オレの声が聞こえてないのかと思ってめちゃくちゃ大きな声で言ってんのに無視される。言葉が違うのかと思って他の言語を使うが、全く反応がない。流石に苛立ってきたのでどこかに行こう思うが、自分の思うように動かせない。  すると上の方から、 「ふふふっ私たちに挨拶しようとしたって無駄さ。私たちには目もなければ耳もない。個としての概念すらないのだからネ」 「誰だお前は!」 「誰だと聞かれても答えが返ってくるものじゃないとわかりたまえヨ」 「お前は少なくともこうして会話できてるじゃねぇか。答えろよ」 「答える義理はないというのだヨ。あなたは騒がず、ゆったりと時を過ごしていればいいのだヨ」 「なんだよそれ!知ってんだろ!答えやがれ!」  そう叫ぶものの、謎の声の主からの返答はなかった。なんだよ。オレだって好きで挨拶してたわけじゃねぇってのに。生き物として縄張り争いや種の交流を深めるのは大切なことだろ?意味わかんね。  なんであいつとは話せるのに、こいつらと何が違うっていうんだよ。自分の意思で動けないのもイライラする。というか、オレの意思ってもの自体ないものにされてるみたいだ。風の赴くまま、地平線を漂わされる。オレ、風に流されるの結構好きだったんだけどな……。あれもオレの意思で流されて、オレが思うままに葉っぱを行き来してたからだったのかもな。  あぁ、そういえば風に流されるのもいい事ばっかじゃ……
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