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1章
「僕と取り換えっこしない?」
突然どこからともなく声が聞こえてきた。周りを見渡すが、動物らしきものはいない。それも当然。オレは巣を張ってる最中だから周囲はすごく警戒しているんだ。何処から?
「ねぇ、聞こえてるでしょ?僕と入れ替わるの!」
どうやら先ほどからオレの周りを覆っているこの霧から聞こえてくる。
「入れ替わるってどういう事だ?」
会話は通じるようだ。
「言葉の通りの意味だよ。僕が君になって君が僕になるの」
そんなことできるわけないだろうと鼻で笑いかけたが、このまま霧に覆われたままでは獲物はどうせ来ないし、暇つぶしと思って了承する事にした。
するとオレはみるみるうちに形がなくなりいつの間にか空高く飛んでいた。飛んだというより浮かび、オレはオレではない何かになった。これでは獲物どころではない。どういう事かと問いかけようとするがさっき聞こえた霧の声は聞こえない。下をみるとオレそっくりなやつがオレが作ったものと瓜二つな巣にくっついてやがる。
「お前!オレに何しやがった!オレの体を返しやがれ」
その声は届いているのかいないのか……。
「やったー!僕蜘蛛になったー!これで自由に動き回ることができるぞー」
蜘蛛。それがオレの前の姿。今は……?
「入れ替わってくれてありがとう。君は今日から雲になったんだよ。お空の上をたっぷり旅してきてね。神様からは半年間は入れ替わってていいって言われたんだよ!じゃね〜!」
そう言ってオレがせっかく作った巣を放置してどこか遠い場所に行ってしまった。
「おい!!待ちやがれ!!」
声をかけてももう振り向きもしない。
オレは雲っていうのになったのか。せっかく最近巣をキレイに作れるようになったのに、あの巣も放置されてオレはこんな姿にされたまま半年も…。絶望的な気持ちで遠くを眺めると山の端が見え、その上を白い雲が覆っている。あの白いのがオレ。山の端なんてものがあったんだ。なんてキレイなんだろう。と感動を覚えた。
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