婚約

3/9
前へ
/324ページ
次へ
 しばし、思考が停止する。ランデブーの意味を考えていた。 「学校の前に可愛い女の子がいましてね、多分、初対面だと思うんだけど、二人して見詰め合って、用があるから、先に帰ってくれって言われたんですよ」  陽次が慌てる意味がわかった。  圭という人間は、ネンネなのか潔癖なのか、異性に全く興味を示さない。自身も、恋愛はもちろん、結婚する気もないと常日頃公言しているだけに、驚きの事実である。 「どんな子だい?」 「とにかく、可愛い子です。  清楚な洋装で、お嬢様だと思うけど、ひとりでした。  なんてっか、どっかで見たような気がするんですよね、あの子。どこだったかなぁ……」 「洋装ってのは、女学校の制服?」 「いんや、違います。淡桃色の服にレースの襟で、同じ色のスカート穿いてました。  なんか訳ありっぽい感じでしたよ。泣き出しそうでしたもん」 「泣き出しそうだった?  でも、圭君とは初対面らしいと言ったよね?」 「はい。あの様子は初対面だと。  ん? じゃあなんで、あんなだったんだろ。  普通一目惚れなら、赤くなるもんですよねぇ」
/324ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加