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「申し訳ないが、一目惚れの経験がないものでね」
「二人してつまんない青春送ってますねぇ」
余計なお世話である。恋愛だけが青春ではない。
扉が開いた。今度は静かに。
「只今戻りました」
艷やかな真っ黒い髪が、扉の閉まるに伴って押し出された風に揺らされる。釣り上がり気味の切れ長な目、薄い唇。
整いすぎて嫌味なまでの美貌には、アルカイックスマイルすら浮かんでいない。
いつも通り無表情な麻上圭の登場である。どう見てもランデブーの後とは思えぬ。
圭に視線を向けられた陽次は、ぎこちなく笑った。
「よ、よぉ、早かったな」
圭は視線を隼人に移し、話があります。と、堅い声を出した。
「申し訳ありませんが、席を外して頂けないでしょうか」
お願いというよりも、命令の口調であった。
「いいじゃねぇかよ、恋の相談は親友にってのが、青春のお約束だぜ」
「恋の相談ではありません」
「じゃ、なんだよ。あの子の話じゃないのか?」
視線が逸れた。話とは、少女が関わっているのだろう。
「席を外しては頂けないのですね」
陽次は、あぁ。と、力強く唸った。
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