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4.
それからの僕の生活は、順風満帆だったとはいえない。
施設に移ってからも、僕の親権を主張する母親との縁はなかなか切れず、母親の彼氏を名乗る人物に、突然連れ去られそうになったこともあった。
しかし……ハカセの言った通り、僕を助けてくれる大人はたくさんいた。
もちろん、たくさんの細かな問題はあったが……僕はその都度情報を仕入れ、どこを頼ればいいか考えた。
そして僕は、勉強を始めた。
来る日も来る日も、参考書を開き、何冊ものノートを文字でうめていく。
勉強ばかりする僕を、最初、周りの子どもたちは揶揄ってきた。しかし時が経つにつれ、誰も何も言ってこなくなった。
高校生になり、僕は里親に引き取られた。
里親は優しく、勉強したいという僕のため、素晴らしい環境を用意してくれた。
しかししばらくすると、成績は伸び悩むようになった。
原因は分かっている。小学校にすらろくに行っていなかったせいで、圧倒的に基礎力がない。
模試の結果が出るたび、僕は焦った。
このままじゃ、北王大学どころか、国立大学なんて夢のまた夢。
せいぜい、その辺の私立大学に引っかかればラッキーという成績。
僕は荒れた。静かに見守ってくれていた里親にも、当たり散らしてしまった。
自己嫌悪に陥り、何度も何度も、大学なんか諦めたいと思った。
でも。
『この地球上で、宇宙に一番近い場所に、連れていってやる』
僕は単純に、気になって仕方なかったのだ。
遠いと思っていた宇宙。
そこに近づけるのは、一体どこなのか、と。
僕は、がむしゃらに勉強するのをやめた。
色々調べ、国立大学の受験に特化した塾に行かせてもらうことにした。
塾の講師からアドバイスをもらい、基礎を固め、考え方を変えた。
文章を読むのが苦手な僕は、五教科が必要な前期試験よりも、理数系教科だけで受けられる後期試験の方が向いていると言われた。
里親に迷惑はかけられない。浪人の選択肢はないから、後期試験で落ちたら後がない。
しかしそこに的をしぼることで、受験勉強の効率は飛躍的に上がっていった。
そして、あの日から約八年たった、まだまだ寒い三月のある日。
僕は、北王大学からの合格通知を受けとった。
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