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就任挨拶前に店長室でパソコンでデターに目を通していた。
店長室と言ってもパーティションに毛が生えた位の薄い壁で天井部分は開いていて隣の事務所と繋がっている。
店長室に入って来た人がいた。
「おはようございます。新任店長中山さん」
声の主はあいつの不倫相手の工藤だった。
「お忙しいのにわざわざ本社の方が……ありがとうございます」
「いやいや、今話題の方なんでお会い出来て光栄です。ではわたしはあちらにいますので」
どうせあいつに会いに来たんだろう。
人が集まって来た様だ。
ガヤガヤと話し声が入り乱れている。
「今度の店長ってこの前テレビの特集でやってたあの人だよね?うわ~どんな人か楽しみ」
その後、昔よく聞いていた声がした。
「うん、私と一緒にパートでやってた親友だよ」
「「「すご~い!」」」
何重にも感嘆の声がしている。
「今日は感動の再開だからハグしちゃうかも!写真も撮る用意してるし」
「「「いいなぁ~」」」
私はあいつがそう自慢する事はわかっていた。そしてその言葉を待っていた。
パソコンを閉じ店長室を出た。
一斉に話が止まり事務所には私のヒールの音だけが響いていた。
一礼をし就任挨拶をする。
「本日店長として着任いたしました中山聖子です。宜しくお願いいたします」
深々と頭を下げた後全員を見渡した。
「就任の挨拶と言っても未だこの店をわかっておりません。ごめんなさい」
笑い声が聞こえた。
「今笑えるって明るい店なんだとほっとしました。店は人が作ります。私は人を大切に出来る店にしたいと思っています」
みんな頷きながら聞いてくれている。
「私は御存知の通りパートでこの会社にお世話になりました。働いているお母さん。私も実感してますが、子供って小さい時は手がかかり、大きくなるとお金がかかりますよね?」
また笑い声が聞こえた。
「だから我武者羅にやって来たら店長としてこの店に辿り着きました。なので店長と言うより経験者としてアルバイト以外の全ての立場を経験した私がお力になれればと思っています」
拍手がおきて挨拶は終了した。
みんなはそれぞれの持ち場に引き上げている。
その中で私に近づく足音がした。
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