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絶対言わないで
最初はいつだったか。本当に他愛ないことから始まった。
「私ね、健くんが好きなの……。絶対に言わないで」
幼稚園の頃か小学生の頃か、気になる女の子に好きな人はいるかと尋ねたのがはじまりだ。淡い恋心が終わった瞬間でありながら秘密を共有できるのが嬉しくもあった。
「絶対言わないよ」
その約束はしっかりと守っている。その子がその後に付き合い出した何人かの元カレに健くんはいない。もちろん僕も含まれていない。ただ約束は約束だ。言うなと言われたものを言う気はない。
次は小学生の高学年の頃だったか。その頃よく遊んでいた友達が、一緒にゲームをしているときにポツリと言った。
「俺、転校するんだ。父さんと母さんが離婚するから……」
「そうなんだ……。何処に行くの? 連絡はとれる?」
「駄目なんだ……。母さんがこっちの人とはもう連絡取るなって。ただ行き先は教える。他の奴には絶対に言うなよ」
耳打ちをして僕に引越し先を彼は伝えた。
「お前と仲良くなって楽しかったよ。ずっと親友だからな」
彼は僕の手に軽く拳をあてる。
「うん。絶対言わないよ」
その数日後、彼は町からいなくなった。行き先を誰も分からなかったため、噂だけが居残りする。父親の浮気が原因だとか死亡事故を起こしたとか、その事実は誰にも知ることはできなかった。
この町で彼の行き先を知っているのは僕だけだろうと微かな優越感もあった。
約束はちゃんと守る。それは変わらない。
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