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中学生のときもあった。野球部の友人。たまたま腕を押さえている場所を見た僕に彼に言った。
「絶対に言うな! 試合に出られなくなる!」
必死な目で僕に訴えかける彼に僕は頷いてみせた。
彼の野球人生は中学でおわった。それでも晴れ晴れとした顔をしていた。
卒業式の日、彼はそっと僕に耳打ちした。
「お前のおかげで後悔はないよ。ありがとう」
良かったのか悪かったのか、僕には判断はつかない。ただ彼が笑っているなら僕に特に言うべきことはない。その約束は今も分かっている。
高校でもあった。夜、コンビニに出掛けたときにクラスメイトの女子がおじさんの腕に引っ付いているのを見た。
彼女は僕の姿を見るなり慌てて口走った。
「誰にも言わないで!」
「いや。パパ活だよね?」
「違う! 私はあの人のことが本当に好きなの! 引き裂くような真似しないで! お願いだから!」
必死な彼女に僕は頷いた。
「ただ犯罪だと思ったら言うからね?」
彼女は頷く。
「そうなったら諦めるから……。だからお願い……」
僕は約束を守った。おじさんと彼女は、彼女の卒業後に結婚して幸せな家庭を築いた。それは今も続いている。
それに関しても僕は誰にも言わなかった。
友人たちから、知らなかったのか? とからかわれたが知らなかったと言った。
僕は嘘つきなんだろうか。ただ約束を守っているだけだ。
僕を信用して言うなと言われるなら僕は約束を守る。これからもずっと。
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