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同じ駅のホームに並んで立つ。今まではとても考えられないことだった。青は落ち着かない様子で辺りを見回す。沈黙がひどく気まずくて、何か話題がないだろうかと探っていた。
何を話そうか、何を話すのが正解なのだろうか、そわそわとずっとそんなことを考えていたが、最初に話しかけたのは青年だった。
「グッズの、取り引き? ああいうの、よくするの?」
「えっ、ああ……まあ……友達に言われて……」
「友達に?」
「はい、いつも」
「いつもって?」
「その、命令されて……」
「命令?」
青年と会話を続けたかったのもあるが、青が花音の話を他人にするのは初めてだった。さっき初めて言葉を交わした人なのに、どうして普段は人に言わないような話を自分から話しているのか、青は自分でも困惑していた。
「いつも私を見下して、私になんでもさせるんです、奴隷みたいに。でも言い返すと余計面倒だから、わがままを聞いているんです」
「そっか……」
青年は呟くように返す。そこに、電車到着のアナウンスがホームに響いた。話を遮られた青は黙り込む。青年も同様に何も言わなくなった。
奇妙な気まずさが二人を包む。一分一秒でも長く青年と共にいたい青は、電車が来ないことを願った。
しかし、こういう時に限って遅延は起きない。時刻通りに電車はホームに到着した。
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