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卒業式の日。式が終わり教室で解散して僕は玄関を出た。トーコとの変な思い出も、この校舎とも永遠のお別れ。多くの卒業生は寒空の下、校舎の前ではしゃいだり感傷にふけったりしている。僕にはわき上がる感情なんてない。
「ねえ、君」
僕の後ろから声が聞こえた。僕は振り返った。
「トーコさん・・・」
「気になっていたことがあるの」
「何です?」
「私たちって付き合っていたの?」
「そのことですか」
「私にはその記憶がない」
「もういいんですよ」
彼女はうつむいた。彼女のつややかで黒くて長い髪が風に揺れた。
「でも君にはその記憶がある」
「うん」
「私、君のことは好きだったかもしれない」
「いまさら?」
「いつかまたお会いしましょう」
「いつかって・・・?」
「その時には私、君のことを思い出してるかもしれないから」
僕たちは場所と時間を決めて会う約束をした。それは数年も先のことで、守られるはずのない約束だった。
「さよなら」
彼女が言った。
「さよなら」
僕はもう二度と彼女と会うことはないと思った。
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