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recollect
中学時代、私は失敗した。
割とよく耳にする話だ。
「竜崎さん。テスト前、どれくらい勉強した?」
「えっと、それほどしてないかな」
そのテストで、私はほとんどの教科で過去最高得点をおさめた。
私にとしては事実を言っただけなのに、自慢だと受け取られた。そしてその日からクラスに私の居場所はなくなった。
「あの『あたし』って自分のことを言うのもキモイよね」
「ダッサイ眼鏡のくせに」
私だって「わたし」と発音しているつもりなのに。うまく言葉が出なくてそういう発音になってしまうだけなのに。
わざと聞こえるように言ってくるクラスメイトから逃げるには、勉強するしかなかった。勉強は決して裏切らないから。努力すればするほど自分の武器になるから。
医学部を目指そうと思ったのに特に理由はない。ただ、文系科目よりも理系科目の方が成績がよかったからだ。もし文系科目が得意だったら法学部。ただそれだけのことだ。医師でも弁護士でも裁判官でも、とにかく高い地位に立つことでクラスメイトを見返したい。ただそれだけのために知識を詰め込んできた。
だから高校生になっても、できるだけ目立たないように過ごしてきたのに。
最初、また目をつけられたと思った。せっかく女子とは自分なりにいい関係を築けていたと思っていたのに、よりによって男子なんて。しかも三年生になり、あと一年我慢すればいいという時期に……。
ずいぶん背の高い増井くんが怖かった。こちらを見てくる増井くんに気がついて思わず視線がぶつかってしまった時、にらんでしまったのではないかと恐れた。「目つきが悪い」と言われていじられ、また居場所をなくすと思った。
だが、様子が違った。
増井くんは私が落とした消しゴムを取ってくれたり、掃除の時に重いものを代わりに運んでくれたりしてくれた。毎朝「おはよう」とはにかんだような笑顔で声をかけられたりもした。
だから私も勇気を出してみた。
七月の期末テスト。隣の席だった増井くんは、テスト直前だというのにまだ問題集を解いていた。
何気なく見ていた増井くんの手元に間違いを見つけた私は、それを指摘した。
「あっ、増井くん。そこ違うよ」
出過ぎた真似をして、嫌われるだろうと思った。
だがテスト終了後、増井くんは満面の笑みを浮かべて私に話しかけるのだった。
「さっき教えてくれたとこ、ばっちり出たね。ありがとう」
それから私たちは少しずつ話すようになった。
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