不穏

22/32
前へ
/149ページ
次へ
 見た目だけでいえば風と間違えるほどだが、この男の方は優美な雰囲気が漂う風とは違って、もっと野生的な印象だ。食って掛かったが最後、確実に命を取られそうな怜悧且つ激しいオーラが恐ろしげで、蛇に睨まれた蛙のように足が竦んで動けない。彼と共にいるもう一人の男も似たような印象で、空手の構えだけ見ても恐らくは敵わないだろうと痛感させられる。  残るもう一人は見たところ華奢な優男(やさおとこ)だった為、男たちはひとまずそちらから潰さんと束になって襲い掛かっていった。 「ク……仕方ねえ。あの優男から潰せ! その間に家具で防護壁を作るんだ!」 「おい、銃を持ってこい! 早くするんだッ!」  男たちは一番華奢な男を制圧した後で残る屈強な二人に対しては飛び道具で迎え撃つ作戦に出るようだ。  ところが、その華奢な男に数人で襲い掛かるも、やわな見た目に反して仕掛ける攻撃が全てかわされる上に、何がどうなったか分からない内に気が付けば床へと投げ飛ばされているといった具合に唖然とさせられる。彼の技は合気道だったのだ。相手の力を利用して、あっという間の一瞬で捩じ伏せてしまう。オロオロとしている隙に他の二人によって構えた銃を蹴り上げられては、重い拳と蹴りの嵐に太刀打ちするどころか逃げる暇さえ断たれて焦る。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

964人が本棚に入れています
本棚に追加