不穏

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 風はスーツの上着で美紅を覆い、破けたスカートを隠してやる。たまたま運良く救出が間に合ったものの、怖い思いをさせてしまったことは明らかだ。  大勢の男たちに囲まれて、一歩間違えば手篭めに遭っていただろうと思うと、怒りと後悔とで腑が煮え繰り返りそうだ。美紅が武術に長けていて気丈に対応したことには驚かされたものの、供の一人も付けずにウェディングドレスの店に行かせたことが悔やまれてならない。 「やはり貴女専用の護衛をつけるべきだな――」  早急に手配しようと言う風に、弟・焔の友人の鐘崎もそれがいいと言ってうなずいた。 「俺のところもこいつ専属の護衛役として組の若い衆を交代でつけています。こいつも合気道をしていますし武術には長けていると言えますが、何かの時には護衛がいれば心強い」 「そうか。遼二のところもそうしているのだな」  美紅は女性だから護衛係も同じ女性の方が彼女も何かと安心だろう。とはいえ堅気だった彼女を下に見たり、羨んで意地の悪いことを考えるような者は論外だ。風は早速に人選を思い巡らせるのだった。
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