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「しかし貴女が拳法を使えるとは驚かされた。大の男三人を捩じ伏せてしまうとは……」
誠、お父上のご教育の賜物だと言って肩を撫で下ろした風を横目に、
「でも、そうね……私も咄嗟のことで昔習っていた拳法を思い出したのだけれど、やっぱり身体が鈍りに鈍っていて結局太刀打ちできなかったわ。今からでももう一度ちゃんと修行を始めようかしら」
そんなことを言う美紅に、彼女の受けたショックが思ったよりも大きくなかったことに安堵の思いがよぎる。美人で華奢な見た目からして、か弱い印象を抱きがちだが、度胸も器の大きさも充分に備わっている彼女に姐としての誇りを垣間見るようで、風はよくよく得難い存在と巡り会えたことに目頭が熱くなる思いでいた。
「ああ。貴女がそうしたいなら俺も反対する理由はない」
もう仕事も辞めさせてしまったことだし、結婚すれば一日中家にいられるわけだ。退屈凌ぎにもなるだろうし、健康にもいいだろうと風も賛成したのだった。
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